トップダウンから脱却し、個人の主体性や連携力を高める上でオフサイトミーティングが欠かせなかった─株式会社レーベンコミュニティ様

代表取締役|中 愼介さん

取締役 経営管理本部 本部長|寺門 幸次さん

取締役 マネジメント事業本部 本部長|宮下 幸弘さん

取締役 マンション管理事業本部 本部長|佐々木 久克さん

経理財務部 兼 経営企画室 室⻑|柴田 真尚さん

(写真左から株式会社ToBeings橋本、株式会社レーベンコミュニティ中さん、柴田さん、寺門さん、ToBeings折口)

レーベンコミュニティは、MIRARTHホールディングスグループにおいて、分譲マンションの管理業務を基幹事業としながら、賃貸レジデンスや商業ビル、ホテルなどの建物管理サービス、太陽光発電所やメガソーラーの施設管理サービス、“自立を支援する”ためのリハビリ特化型デイサービス「マイリハ」、賃貸・サブリース事業、保険代理業やリノベーション事業、また海外では、グループ会社LebenCommunityVietnamによるベトナムでのマンション管理事業等を含め、人々の生活や暮らしに関わるサービスを幅広く提供している会社だ。

2023年3月、ToBeingsは、レーベンコミュニティの「オフサイトミーティング(役員合宿)」を企画・運営した。社長と全取締役が一堂に会して、丸2日にわたって対話する場である。また、オフサイトミーティングを開催するにあたって、事前に全参加者の個別インタビューや組織の見立てを行った。さらに開催後は、振り返りやフォローアップダイアログを手がけた。この一連のプロセス・コンサルテーション・プロジェクトにどういった効果があったのか。その後、参加者やビジネス・組織がどのように変化したのか。現社長の中愼介さんと、オフサイトミーティングに参加した寺門幸次さん、宮下幸弘さん、佐々木久克さん、柴田真尚さんにお話を伺った。(※中さんはオフサイトミーティングには参加しておらず、終了後の2023年4月に代表取締役に就任した。)

トップダウン型縦割り組織から脱却し、個人が主体的に協働する組織に変わるべきフェーズを迎えていた

代表取締役|中 愼介さん
――最初に、オフサイトミーティングを実施した背景を教えてください。

:レーベンコミュニティは、私が2023年に代表取締役に就任する前は、長らく前社長が経営をリードしていました。良くも悪くも、トップダウン型の縦割り組織だったのです。ある頃までは、トップダウンが間違いなくプラスに機能していました。利益優先なら、トップダウン型の縦割り組織が最も効率的なのです。しかし、会社が成長して組織が大きくなるとともに、トップダウンの限界や弊害も徐々に露わになってきていました。その結果、2022年頃に社内のさまざまな問題が一気に噴出し、表面化したのです。私たちは、トップダウン型から脱却して、一人ひとりがリーダーシップと主体性を高めながら、全員で協働する組織に変わるべきフェーズを迎えていました。

柴田:しかし困ったことに、社長の後任となる予定だった者が、急遽新社長に就任できなくなりました。こういうときこそ、役員たちが力を合わせて、会社の未来を創っていくことが欠かせません。ところが、当時の役員たちは縦割り意識が強く、腹を割って話し合い、お互いに連携することがほとんどなかったのです。役員間で相談して、社長に提案するといった行動もありませんでした。このままでは、次期社長を迎え入れる体制を整えることができませんでした。

そこで私たちは2023年3月、ToBeingsの皆さんの協力のもと、1泊2日で前社長(当時)と取締役全員が一堂に会し、皆でホンネを話し合う「オフサイトミーティング(役員合宿)」を開催することにしたのです。最大の目的は、彼らのリーダーシップ、主体性、連携力を高めることでした。親会社であるミラースホールディングスのボードメンバーが、同様のオフサイトミーティングを実施したと聞いて、おそるおそるToBeingsにコンタクトしました。まったく初めての取り組みで、正直なところ最初は不安でいっぱいでした。

取締役 経営管理本部 本部長|寺門 幸次さん
――プロジェクト開始前は、オフサイトミーティングをどのようにとらえていましたか?

寺門:最初にオフサイトミーティングの説明を受けたとき、「決まったゴールがない」と聞いて、不安が募りました。まったく参加したことのないタイプのミーティングで、ビジネスの現場でもゴールを決めないことなどなかったからです。ビジネスでゴールを決めない話し合いなんて成立するのだろうか、と思いました。

――「ゴールがない」というのは、オフサイトミーティングを企画する側が一方的に落としどころを決めるのではなく、参加者全員がミーティングのテーマやゴールを対話しながら生み出していくということです。その際、私たちファシリテーターは、参加者の皆さんを支援する側に徹します。事前のシナリオや落としどころがないため、参加前は不安に感じる人が少なくありません。

しかし実際に体験すると、最終的に満足する参加者が多いミーティングです。話し合いのテーマやゴールを全員で作り上げていくので、対話の腹落ち感や納得感が高いのです。参加者間の相互理解が深まり、絆が生まれるのも特徴です。

佐々木:私は、他の取締役に伝えたいこと、自分なりの想いは持っていました。ただ、当時のレーベンコミュニティには、取締役同士が本質に踏み込んで話し合う空気はありませんでした。ですから、本当に皆とオープンに対話できるのかと、半信半疑でオフサイトミーティングに向かったのを覚えています。

経理財務部 兼 経営企画室 室⻑|柴田 真尚さん

ホンネで対話することのなかった取締役たちが遠慮なく意見を言い合える関係になった

――私たちは、事前に全参加者に個別インタビューを行い、一人ひとりの想いと関係性と現状を把握しました。その上で組織全体の見立てを行い、しっかりと準備をしてからオフサイトミーティングに臨みました。参加者の皆さんには、オフサイトミーティングの2日間はどう見えていましたか?

寺門:1日目が終わった時点で、実際はしっかりとした輪郭を持ったプロジェクトなのだということがよくわかりました。冒頭で、深い対話には心理的安全性が欠かせないことを教えてもらい、その後に全員が自らの想いや不安、参加者のことをどう思っているか、といったことをホンネで話していく場を体験して、これなら全員と腹を割って対話できそうだと感じました。実際、2日間の話し合いは濃密で、終わったときにはどっと疲れが出ました。

柴田:私は自分をさらけ出すことができて、スッキリしました。私は取締役ではありませんが、役職を気にすることなくホンネで話すことができました。また、一人ひとりの生きてきた歴史や考え方の背景、それぞれが抱える痛みを知ることができたのも有益でした。

宮下:参加者が自分たちでテーマを決めて話し合い、皆でアイディアを形にしていくオフサイトミーティングの時間がとても印象的でした。ToBeingsの皆さんに教えてもらうのではなく、ToBeingsの皆さんと一緒に創り上げていく感覚がありました。主体性が高かったからでしょうか、1つひとつの経験をいまも鮮明に思い出すことができます。私はこれまで多種多様な研修やミーティングに参加してきましたが、このように長く記憶に残っているものは他にありません。

佐々木:私はオフサイトミーティングで、私たち独自のサービス品質管理システム「SQMS®」について深く話し合いたいと思っていました。実際に対話できて嬉しかったです。また終了後は、SQMSへのトップコミットメントが深まりました。対話がその場だけで終わらず、現実のビジネスに反映されていることにも満足しています。

――2日間で特に印象的だったことを教えてください。

柴田:私はあの場の皆で、お互いに感謝すること、改善してほしいことをフィードバックしあった時です。この場で、寺門さんに「あなたには自分の意見がない」と心の底で思っていたことをはっきりと伝えることができました。とても印象に残っています。

――2日目の最初に、メンバー各自が担っている役割や提供価値に対して、お互いが感謝を伝えるとともに、相手の弱みや改善してほしいことを率直にフィードバックする場を実施しました。柴田さんは、そのときのやりとりが印象に残っているのですね。

このとき、参加者の1人が「このフィードバックは、今後に大きな禍根を残すかもしれない」と口にしました。全員でそうした恐れを受け止めながら、安全な対話のプロセスを設計して実施したところ、終了後は全員の関係性が良くなり、一体感も高まっていました。私は、恐れを口にした参加者が一番満足そうだったのを覚えています。やってよかったと思いました。

寺門:柴田さんからこう言われたときは衝撃的でしたが、終了後は、お互いに遠慮なく意見を言い合える関係になれたと感じています。オフサイトミーティングは、このように参加者同士が信頼関係を構築する場でもありました。

柴田:私は、前社長とToBeingsの折口みゆきさんのやり取りをよく覚えています。このとき私たちは、コンプライアンスをテーマに話し合っていました。そのなかで、折口さんは「社長や取締役の皆さんは、一見、従業員のことをよく考えているようでいて、実際は一人ひとりの想いを受け止めきれていないのではないか」と、従業員の気持ちを代弁してくれたのです。このとき、私たちは折口さんの言う通りだとおおいに反省しました。この反省は、その後の組織変革に間違いなく生きています。

――そのときのやりとりを補足すると、折口はプロとして、話題に上った女性社員を自分のなかに降ろし、前社長と話した女性社員の内心や葛藤を演劇的に表現したのです。女性社員が乗り移った折口によれば、前社長は、表面上は彼女の言葉を受け止めていましたが、その背後にある彼女の辛さや傷までは受け止めきれておらず、むしろシャッターを下ろしてしまっていました。

私たちがそうやってファシリテートするなかで、前社長は、自分がいかに立場の弱い者、ビハインドな状況にいる者たちの声を理解できていなかったかを深く理解したのです。その様子を見て、寺門さんを含めた取締役全員が「これは自分たちの姿でもある」と悟ったのでした。

オフサイトミーティングからどのような学びを得ましたか?

寺門:私が得た一番の気づきは「問題を起こした個人だけが悪いのではなく、組織のメカニズムに問題があったのだ」ということです。当時、権限のある立場の者のハラスメントなどさまざまな問題が起きていたのですが、周囲との関わりのなさが権力者の孤独や暴走を加速してしまったり、権力の空白状態の対応が不明確だったりと、それを引き起こすような組織のメカニズムがあったのです。不祥事の責任の100%を個人に帰するのは間違いだと思いました。それどころか、私自身も知らず知らずのうちに、組織のメカニズムの片棒を担ぐ側にいたことに気づかされました。

もちろん「ガバナンス」という言葉は知っていましたが、ホンネの対話を通して当時起こっていたことの全体像が浮かび上がり、圧倒的なリアリティと当事者意識で、ガバナンスの重要性に気づくことができたのです。だからこそ、皆で変わろうという意識が醸成されたのだと思います。

本社ワンフロア化、部長・次長向けオフサイトミーティング、全社員アンケートなど次々に変革を進めている

――オフサイトミーティングから1年以上経ちました(※取材時は2024年6月)。その後、私たちは皆さんとともに全3回の「フォローアップダイアログ」も実施しました。この3回のダイアログでは、新たに就任した中社長と中川常務にも加わってもらい、あらためて合宿で対話した方向性についてレビューしながら、いま向き合うべき最も本質的な課題について対話を深め、その成果を日々の活動に落とし込み始めました。

同時に、宮下さんと佐々木さんは、ミラースグループ全体の次世代経営者を集めた場に参加し、半年間かけてマネジメントのあり方をアップデートする取り組みにも参加していました。一連のプロジェクトを経て、現在はどのような変革を進めていますか?

:現在は、組織変革を進めたり、より働きやすい環境をつくったり、業務フローなどの透明性を高めたり、新商品・新サービスの開発に力を入れたりしています。佐々木さんが先ほど触れていた品質管理(SQMS)についても、時間をかけて変革している最中です。

2024年度の最も大きな変革は「本社オフィス移転」です。現在は、本社オフィスが2つのビルの数フロアに分かれています。このオフィス環境のままでは、縦割り文化を壊すことも、社内に一体感を醸成することもできません。そこで1カ月後の2024年7月、本社オフィスを移転して、全部門をワンフロアに集約します。この移転は迅速に進める必要があったため、半年前にトップダウンで決断し、すぐさま行動を起こしました。

柴田:一方で、私たちは今後の組織変革に、このような対話の場を持つことが必須であると考えました。そのためには、私たちが自分たちの力でオフサイトミーティングを開催できるようにしなくてはなりません。そこでまず、私がToBeings主催の「今ここから始まる組織進化の実践講座」に参加して、長期的に組織が進化していくプロセスと、そのためのファシリテーションのスキルを実践的に身につけました。その後、私は「役員ミーティング」や「部長・次長クラス向けのオフサイトミーティング」の社内ファシリテーターを務めています。

寺門:もちろん、個人の主体性や連携力を引き出すための変革も着々と進めています。2024年には、いま柴田さんが少し触れた「部長・次長クラス向けのオフサイトミーティング」を自主的に実施しました。中社長や柴田さんなどがファシリテーションを担当し、部長・次長たちが自分たちでテーマを決め、ホンネで話し合う場を創り上げたのです。この場で出てきた部長・次長の意見も組織変革に反映しています。経営者・取締役から見えている景色と、部長・次長から見えている景色はかなり違います。彼らの多様な声を積極的に取り入れることが、より良い変革を起こすことにつながるのです。最近は、部長・次長の意見がどんどん上がってくるようになりました。オフサイトミーティングの効果を実感しています。

加えて、「全社員アンケート」も実施しました。現場社員の声を集めたかったからです。結果は想定以上で、特に自由筆記で積極的に意見してくれた社員が何人もいました。部長・次長クラス向けオフサイトミーティングや全社員アンケートを通して、ボトムアップ型組織づくりの第一歩を踏み出すことができたと感じています。

部長や次長が社長同席の場で取締役に遠慮なく意見するようになってきた

取締役 マンション管理事業本部 本部長|佐々木 久克さん
――社内では、どのような変化が起こっているでしょうか?

:1つ極めて大事なのは、オフサイトミーティング後、私と取締役たちが集まって、週に一度「役員ミーティング」を継続していることです。毎週3~4時間ほど、ざっくばらんに話し合っています。それ以外にも、役員間の対話機会を増やしています。こうやって私たちが密に話し合いつづけることが経営変革に欠かせないと考えています。2023年3月以前は、役員がこのように密に話し合う機会がほとんど皆無だったことを考えると、私たちはある意味で劇的に変化しているのだと思います。

佐々木:最初のオフサイトミーティングで、参加者がお互いを褒めあったり、感謝を伝えあったり、真剣に意見をぶつけ合ったりしたことが、いまの組織変革につながっていることは間違いありません。今後も役員同士の信頼関係を維持するため、話し合いを止めないことが大事です。

宮下:現場の空気もどんどん変わってきています。先日、中社長がある部門の会議に出席したのですが、「久々に参加したら、皆がずいぶん明るくなっていて驚いた」と感想を述べていました。現場が目に見える変化を起こしているのです。私は部内の会議にはほぼすべて参加しているのですが、最近は私がいても、多くが一切遠慮せずに議論するようになりました。私に積極的に相談しに来る部下も増えました。こうした小さな変化の積み重ねが、新たな組織風土、一人ひとりが主体的に動きながら協働する文化を形づくるはずです。

佐々木:私も同じことを感じています。最近、部長や次長が、社長同席の場で取締役に遠慮なく意見するようになってきました。また、部長・次長が自らワーキンググループを立ち上げたり、新たに起案したりすることも増えました。それから、若手社員たちも上層部の変化に気づき始めていて、「最近、何をしているのですか?」「組織変革に期待してよいですか?」などと声をかけられることが増えました。これも嬉しい変化です。一方で、中社長の存在も大きい。私は、中社長から「もっと部下に任せなさい。責任は私たち全員で取ろう」とアドバイスをもらい、安心して部下に任せられるようになってきました。

取締役 マネジメント事業本部 本部長|宮下 幸弘さん
――今後の展望を教えてください。

:私たちの本業であるマンション管理企画事業をあらためて強化し、収益力を高めることが何よりも先決だと考えています。ただ一方で、デイサービス事業や保険代理業、ベトナム事業など他の事業との一体感も強めていきたいと思っています。この2つに目途がつけば、次は新規事業に注力するつもりです。もちろん、トップダウン型からの脱却と、リーダーシップ・主体性・連携力の強化を同時並行で続けていきます。

――最後に、皆さんが感じるToBeingsの特徴を教えてください。

寺門:先ほども語りましたが、当時の社内には明らかな問題があり、再スタートを切る必要がありましたから、最初はゴールを設定しないオフサイトミーティングなど、ありえないのではないかと感じていました。しかも、事前ヒアリングのフィードバックもしてもらえず、参加前は不安が募るばかりでした。ところが参加してみると、全員が心理的安全性のもとで、ホンネをさらけ出し、不安を吐露し合いながら、本気で話し合うことができたのです。また、私自身も「現場女性社員の立場や気持ちを理解できていないのだ」という大きな気づきを得ることができました。驚きました。あらためて振り返ると、ToBeingsの皆さんは参加者の間に入って、全員の力やホンネを引き出すのが上手なのだと思います。皆さんと一緒にいると、自分の言葉遣いが変わったり、さまざまな気づきを得られたりするのが体感的にわかります。自分だけでなく、全員がそうなのです。

柴田:「今ここから始まる組織進化の実践講座」で学んであらためて感じたことですが、ToBeingsのオフサイトミーティングの最大の特徴は、「参加者が自分たちで気づかないと前に進めない」ことだと思います。ToBeingsの皆さんは、ファシリテートと少しのアドバイスはしてくれますが、それ以上のことはしません。あとは、参加者が自分たちで対話し、考え、行動に移すほかにないのです。しかし、それが良い結果をもたらすのだと感じます。結局は、自分たちが変化し、自分たちが行動を起こさない限り、何も変わらないのです。そのことが体感的にわかるプロセスコンサルテーションだと思います。