「組織の枠を超えてホンネで話し合う文化」「経営視点でグループ全体を真剣に考えあう文化」を創るためにオフサイトミーティングが必要だった─MIRARTHホールディングス株式会社

MIRARTHホールディングス株式会社 グループCRO 兼 執行役員 グループ人事戦略部長 兼 グループDX&VX戦略部長

株式会社タカラレーベン 上席執行役員 経営管理本部長

⼭地 剛さん

MIRARTHホールディングス株式会社 グループ総務部長

株式会社タカラレーベン 執行役員 経営管理本部 総務人事統括部長

横田 新哉さん

(写真左からMIRARTHホールディングス株式会社 横田さん、山地さん、株式会社ToBeings橋本)

タカラレーベンは、創業50周年の2022年10月1日に持株会社体制に移行し、MIRARTHホールディングスへ商号を変更した。不動産事業(新築分譲マンション事業・戸建分譲事業・中古マンション買取再販事業・不動産資産運営管理業務・マンション管理など)を中心に、エネルギー事業、アセットマネジメント事業、建設・ホテル事業などを幅広く展開し、地域社会と”共創”する未来の街づくりに取り組んでいる。

ToBeingsは、社名変更後の2022年10月、MIRARTHホールディングスの皆さんとともに、代表取締役・取締役を対象とした「オフサイトミーティング(キックオフ役員合宿)」を2日間にわたって開催した。このオフサイトミーティングは、ボードメンバーを起点とした組織開発プロジェクトの入口に当たるものだ。私たちは、オフサイトミーティング開催の準備として、事前に全参加者の個別インタビューや組織の見立ても行った。さらに開催後は、振り返りやフォローアップダイアログを手がけた。

なぜToBeingsの対話の場をキックオフ役員合宿に選んだのか。一連の組織開発プロジェクトにどのような効果があったのか。実施から2年近く経って(※取材時は2024年6月)、いま参加者や社内にどういった変化が起こっているのか。これからどのような組織を目指すのか。組織開発プロジェクトの仕掛け人であり、グループCROを務める⼭地剛さんと、現在の組織づくり担うグループ総務部長の横田新哉さんにお話を伺った。

役員たちが想いをぶつけ合いながら、協力してビジネス・組織変革に取り組む機会を設けたかった

グループCRO 兼 執行役員 グループ人事戦略部長 兼 グループDX&VX戦略部長|⼭地 剛さん
――なぜ「キックオフ役員合宿」にToBeingsのオフサイトミーティングを選んだのですか?

山地:役員向け研修は毎年の恒例で、これまでにさまざまなプログラムを実施してきました。ただ、いつも研修中や研修後には一時的に役員たちのモチベーションが上がったとしても、その意欲が継続せず、すぐに元に戻ってしまうことが悩みでした。役員たちは、研修という非日常の場面ではに真剣に取り組んで頂けるのですが、それでもこれまでの研修では、日々の現実を踏まえて、役員同士がお互いに越境して踏み込んだり、本音を出し合ったりするレベルに至ることが難しい状況でしたそのため、根本的な関係の変化が起きなかったのです。

当然ながら、役員たちには会社を良くしたいという強い想いがあります。しかし、これまでは縦割り組織のなかで、役員一人ひとりが、別々の想いや考えのもとで、異なる行動を起こす傾向が強くありました。それでは大きなうねりが起こらず、ビジネスや組織の変革にはなかなかつながりません。

このような現状を受けて、私は、研修という枠組みを壊して、役員たちがお互いの想いをぶつけ合いながら、ともにアイディアを生み出し、協力してビジネス・組織変革に取り組む機会を設けたい、と思っていたのです。そうしてゆくゆくは、社内に「組織の枠を超えてホンネで話し合う文化」や「経営視点でグループ全体を真剣に考えあう文化」を創りたかったのです。そう考えていたときに橋本さんと出会い、ToBeingsの組織開発アプローチなら、まさにそれを実現できるかもしれないと感じました。そこでMIRARTHホールディングスのキックオフ役員合宿を皮切りに、ToBeingsさんと組織開発のタッグを組むことを決めたのです。

役員全員が部門相互理解を深め、社内の多様性にもっと馴染む必要もあった

グループ総務部長|横田 新哉さん

――当時の組織課題について、もう少し詳しく教えてください。

山地:MIRARTHホールディングスは7、8年前までは主にマンション事業の会社でした。しかしそれ以降、島田和一代表取締役が中心となって、事業の多角化を力強く推し進めてきました。現在、私たちは順調に事業を伸ばしており、組織も急拡大を続けています。

そのため、現場では新たなマネジャーの育成が重視されています。私たちはそのために「育てる文化」をさらに醸成する必要がありました。マンション事業が主体だった頃、私たちは営業中心の会社で、マネジメント力以上に営業力が重視されていました。しかし、事業の多角化を果たした現在は、組織構成が大きく変わっています。当時の社風から脱して、マネジメント育成を加速することが急務となっているのです。幸いなことに、多くの社員がこの問題に気づき始めていました。役員と人事部が中心となって、育てる文化を創るための仕組みづくりや風土改革を早急に行うことが求められていました。

横田:部門同士の相互理解も不足していました。MIRARTHホールディングスは不動産事業、エネルギー事業、アセットマネジメント事業、建設・ホテル事業などを幅広く展開しているため、社員たちは他の本部や部署が具体的に何をしているか、どのような考えのもとで動いているかをほとんど知りません。かくいう私自身が、まさにそうでした。私は長年、新築分譲マンション事業の営業サポート部門で働いてきたため、他部門について分からない事が多かったのです。総務人事部長になってさまざまな事業や組織と接し、社内の多様性に驚いています。現場社員は必ずしも全社を知る必要はありませんが、役員となると話は別です。グループ会社含む全役員が自分の組織だけを見ることがないよう、さらなる成長のために、部門相互理解を深め、社内の多様性にもっと馴染む必要もあるのです。

山地:以前の当社では、小さい組織でしたので営業などそれぞれの分野での業務を極めていれば、それで十分に通用しました。しかし、現在では、自部署の業務を極めるだけでなく、他事業やファイナンス、ESGなどに関する幅広い経営知識を求められています。役員自身も自己変革を進め、学び続けることが欠かせなくなっているのです。部門相互理解も、そうした学びのうちの1つです。

横田:役員のなかには、部門たたき上げの優秀人材が少なくありません。特にそのような役員には専門外に飛び出すチャレンジが必要です。そうした人たちにとっては、ToBeingsのオフサイトミーティングを通じて、新たな一歩を踏み出してほしいという想いがあったのではないでしょうか。

山地:以前もいまも、役員たちの仲は決して悪くありません。しかし、各々が自身の事業領域における一国一城の主人であり、役員同士が腹を割って話し合ったり、お互いの領域や成長課題に踏み込んでフィードバックしたり、目線を揃えて全社の未来をカンカンガクガクに語ったりする機会がありませんでした。そのため、日々の業務でも本部間で問題やコンフリクトが起こったとき、本部長たちがその事態を深く認識せず、部下たちの抱える問題やコンフリクトがなかなか解決しないケースが見られました。こうした事態を防ぐためには、とにかく役員たちが密に話し合うことが欠かせません。この意味でも役員間の対話の場が必須でした。

社長と取締役たちの間に一体感が生まれ、長期視点の優れた経営課題を抽出できた

――私たちは、事前に全参加者に個別インタビューを行い、一人ひとりの想いと関係性と現状を把握しました。その上で組織全体の見立てを行い、しっかりと準備をしてからオフサイトミーティングに臨みました。

個別インタビューでは、最初は多くの参加者が警戒していましたが、途中からは皆さん安心して心を開いてくれました。参加者たちはそれぞれ、事業や経営に対する自分なりの想いを秘めていました。しかし、ボードメンバー全員が集まる場で、そのような想いをさらけ出し、語り合うことには難しさや疑いを感じていました。なぜなら、全員がこれまで上司などに自分の想いを語ったときに傷を負ったり、痛みを感じたり、想定外の落としどころに持っていかれて違和感を覚えたりした記憶があったからです。また、過去にボードメンバーたちがホンネを対話する場など開かれたことがなく、本当に実現可能なのかと半信半疑だったのです。私たちはそうした皆さんを勇気づけながら、オフサイトミーティングに向かいました。

開催してみてどう感じましたか?
最初のチェックインの時の様子。参加者全員が緊張している様子が伝わってくる。

山地:オフサイトミーティングで、全員がホンネを交わし合えたことは間違いありません。たとえば、島田社長の後継者の話題が出たのですが、オフサイトミーティング以外ではおそらく誰も切り出せなかったのではないかと思います。あの場だからこそ話し合えたことが、他にもいくつもありました。また、お互いのホンネを知ったことで、社長と取締役たちの間に一体感も生まれました。ビジネスや組織について、各自が異なる考えを持っていたのですが、それを深く分かり合えたことが大きかったと思います。

オフサイトミーティングの2日間では、自社の強みの根源を振り返って、未来へのつながりを考えたり、粘土を使いながら各々が想像するミラースの未来イメージや、そのなかで大切にしたいことを吐露し合ったりしました。その上で最後に、具体的なネクストアクションを全員で話し合って決めました。その間、誰もが自分の想いを吐露しあいました。

「ありたい会社の未来像」を粘土で表現し、語り合った。

実施後は、参加者が口々に「これまでの研修よりも何よりも、一番良かった!」と言っていました。誰もがストレスなくホンネを言いきることができたからだと思います。また、オフサイトミーティングの場で、長期視点の優れた経営課題を抽出することもできました。そこで私たちは終了後も月に一度、その経営課題について継続的に話し合う場を設けました。

ただ、惜しいことに、その話し合いの場は数カ月も経つと、足元の経営課題について議論する場に変質してしまいました。オフサイトミーティングのときは「最も大事な課題だ」と皆が言っていたのですが、平時に戻ると、どうしても長期課題よりも目先の課題を優先するようになるのです。今後はこのような状況に手を打つ必要があると感じています。

――「緊急ではないが重要な課題」は、そうなりがちですよね。オフサイトミーティングのような非日常の場では、議論が深まり、今回のように本質的な課題が出てくることがよくあります。しかし、本質的な経営課題は緊急でないことが多いため、日常に揉まれると、優先順位が変わってしまうことがよくあるのです。一度かなり深く議論したからこそ、オフサイトミーティングのような場を定期的に持ったり、議論を形骸化させずに継続する工夫を意図的に行ったりする必要があります。

たとえばあるクライアントは、月に一度のオフサイトミーティングを3年続けているのですが、最近は自分たちだけで場を運営できるようになりました。そのくらい継続すれば、役員の皆さんも自然と変わっていくはずです。

山地:今のお話の意味がよくわかります。次回のオフサイトミーティングの開催を検討したいと思います。

2日間のオフサイトミーティングを終えて最初の緊張した面持ちとは、まるで別人になった。

次期幹部層に組織マネジメント力と視座を高めてもらうため「組織マネジメント実践塾」も実施

グループ社長・副社長に自分達の考えをぶつけることもあった。

――2023年11月からは、グループ次期幹部層向けの「組織マネジメント実践塾」が始まりました。私たちが全参加者にインタビューした上で、2023年11月に第1回合宿(2日)を行い、職場実践を経て、2024年1月に第2回合宿(2日)を行うプログラムでした。職場実践の最中には、私たちが全参加者と1on1も行いました。こちらはどうでしたか?

山地:私がグループ次期幹部層に最も求めているのは、「優れた組織マネジメント力」と「経営視点でグループ全体について考えられるだけの高い視座」です。今後、彼らには他本部に異動し、専門外の部署でマネジメントしてもらう可能性が十分にあります。そうなったときにも、部下と向き合い、組織を適切にマネジメントできるだけの力を身につけてもらいたいのです。また、経営視点でグループ全体について考えることができ、どのような上司とも対等に議論できるよう、視座を高めてほしいとも思っています。組織マネジメント実践塾には、そのような想いを込めました。

横田:次期幹部層の者たちは、総じてすばらしい情熱を持ち、やりたいことが明確になっています。しかし、彼らの多くは、自分の業務範囲内に関しては優秀ですが、一方で上や斜め上に働きかけて、周囲を巻き込んで大きなうねりを生み出していくことをあまり得意としていません。私たちは、彼らに会社全体を動かすような取り組みを主体的に起こしてもらいたいのです。

――組織マネジメント実践塾の参加者たちは、合宿のなかで話し合い、グループ間連携やDXなどをテーマに掲げた主体的活動「NEXT」を始めています。すでに、グループ間連携によるシナジーも生まれつつあると耳にしています。まさに、周囲を巻き込んで大きなうねりを生み出していこうとしているわけで、組織マネジメント実践塾の効果が早くも出ているといえるのではないでしょうか。
「NEXT」が生まれた時の対話の様子。

山地:そのとおりです。私も「NEXT」の活動にはおおいに期待しています。また、多くの参加者にとって、さまざまな部署や価値観の仲間と出会うことが、多様性理解を深める良い機会になっていることも確かです。上・斜め上の働きかけや高い視座の重要性、部下と向き合うことの大切さも理解してもらえたと感じています。付け加えると、グループ会社からの参加者の反応が目立ったことが印象的でした。グループ全体の協働を考えたとき、彼らの存在が重要になってくるかもしれません。私たちはこれから、次期幹部層のフォローアップを行います。さらなる効果が生まれることを期待しています。

――最後に、皆さんが感じるToBeingsの特徴と、私たちを選んでいただいている理由を教えてください。

山地:一般的な研修のなかには、落としどころを決めて参加者を変えようとするものがあり、参加者たちはどうしても身構えてしまいがちです。ところが、ToBeingsのオフサイトミーティングはそうしたところがなく、安心して主体的に参加しやすい点がすばらしいと感じています。特に役員たちは押し付けを嫌う傾向があるため、オフサイトミーティングが適していました。

ToBeingsの皆さんは、組織開発の理論的なバックグラウンドを押さえながらも、理論的に説得しようとせずに、遊びのような体験や、その場で起こった体験をうまく拾いながら、組織・関係性・育成などの話に紐づけて、参加者に気づきを与えてくれます。また、参加者たちのリアルな悩みや、現場で起こる出来事をよく理解した上でヒントを出したり、誰もが経験する家庭や日常での話の例えなどを用いたりしてくれるので、圧倒的なリアリティと腹落ち感があります。

ToBeingsの対話の場であれば、社内に「受講者が能動的に参加する楽しい時間です」とか、「高度なことを遊ぶように学ぶ時間です」などと自信をもってアナウンスし、ハードルを下げて参加してもらうことができます。誰もが身構えずに参加できるだけでなく、参加して損をしたと感じないはずです。遊んでいると思ったら、仕事につながる高度な学びを得ることができるのですから。

横田:私にとって、ToBeingsのオフサイトミーティングは初めての不思議な体験でした。ペースはゆっくりなのですが、終わった後は早く感じるのです。ストレスがなく、鮮明に記憶に残る場でもありました。山地の言うとおり、高度なことを遊ぶように学んだのだと思います。講師がいない代わりに、ファシリテーターの皆さんがサポートしてくれるのもちょうどよい距離感でした。