4ヶ月間にわたって開催された「今ここから始まる組織進化の実践講座」。2期、3期と連続して参加した中島さんに、入門講座・本講座を通じて得た学びの変遷について、お話を伺いました。
日本電気株式会社(NEC)
ピープル&カルチャー部門
ディレクター
中島 一朗
過去のファシリテーター経験を経て、学び直しをすることに
──普段はどのようなお仕事をされているのでしょうか?
NECで人事の仕事をしております。会社に入って30年以上ですが、入社以来ずっと人事部門でキャリアを積んできました。最近では人事改革・施策をグループ会社に展開しています。グループ会社の人事部門や、マネジメントを担当している皆さんと一緒に進める役割を担っています。
社内、グループ会社に人事のポジションは多数あり、勤続30年で海外含めて10ポジションのキャリアを経験しています。
──当講座を受けようと思ったきっかけは?
我々が人事業務をする中で、マネージャーの皆さんと一緒にマネジメントについて考える場面がよくあります。例えば「新任マネージャーの方とトレーニングをしよう」となって、ワークショップの場を作ったりですね。そういう意味では、ファシリテーションのまねごとをしていて「少し集中してこの領域を学んでみたい」との気持ちは以前からありました。改めて講座を通じて学ぶチャンスがあると知り、「これは面白そうだ」と思ったのが参加したきっかけです。
──元々、そうした分野に興味関心をお持ちだったのですね。
以前、社内で難しい議題を扱う会議の場で、ファシリテーターを経験したことがありました。その時に途中から会話が前に進まなくなってしまい、結果として頓挫する場面も何度か経験しています。ファシリテーターをしている方々からは「場をどう作っていくのかで、解決できることがたくさんありますよ」とアドバイスをいただいたのですが、いったいどういうことなんだろうと思っていました。
たまたまToBeingsがこうした講座を開催していると知って「ぜひ学び直しをしたい」と思ったのが決め手となりました。グループ会社へ人事施策を展開し、議論を深めていくためにはファシリテーションが非常に重要になります。さらに高いレベルで議論を交わし、組織改革を前に進めるためにも「この場」をどうしていくのか。そのあたりを学びたいと思いました。
──中島さんは2期を修了されてから、再び3期に参加されています。なぜもう一度、改めて受講しようと思われたのでしょうか?
普段の業務の中で「感情に向き合う」ことをしていますが、学ぶ場はあまりなかったんです。「感情に向き合う」というのは、コンフリクトの場とかエッジとか、皆さんが避けて通りたくなる場面を取り上げていくこと。多くの場合、スルーしてしまうようなことを、取り上げる場は他にはないと思っています。
さらに2期を受けてみて、改めて「キャッチしきれていないものがたくさんある」と気付かされたんですね。「これはいかん。まだ足りていない」と。コンフリクトの場での対応やエッジについて学べる場は、他にはありませんから、もう1回受けてみようと思いました。同じ講座を受けたとしても、行うワークや取り上げるケースに何が出てくるかは分かりません。そういう意味では、さらに学びを深めることができるだろうという期待がありました。
講座は「安心安全の場」。自分自身を開示し、素直に挑めた
───実際に講座を受けてみて、いかがでしたか?
私は入門講座の合宿から参加しましたが、過去に多少、組織開発についてインプットした知識がありましたのでそれほど違和感なくなじめました。「まさにこういうことを学ぶんだ」と素直に受け止めて、楽しんでいたんです。一緒に参加した方の中には、戸惑っていた方もいたかもしれません。
──最初から違和感なく、講座に参加できたのはなぜだと思いますか?
そうですね、どういう言葉が正しいのかは分かりませんけれども…1つは「自分自身をどう開示するのか」ということです。講座の場は、ToBeingsの皆さんから「安心安全である」と伝えていただいていました。そのため、安心して自己開示できたと思います。
もう1つは素直な気持ちで学びを受け止めようと思えたからでしょう。参加者の皆さんのいろいろな思いも、伝えていただいたまま素直に受け取っていました。いつもの自分のままで、素直に学ぶ。そういう立ち位置でこの場に自分がいると意識し、準備できた状態で参加できたかなと思います。
──「自分らしくある」という姿勢で、最初から参加できていたのですね。
はい、そこは違和感なくありました。周りの皆さんも最初は少し緊張されている様子でしたが、ご自身のことを語っていくうちにどんどん自然になっていきました。それも感じ取れたので、ますます安心して学びに集中できましたね。
先ほどお話しした「どういう立ち位置に自分がいるのかを準備する」というのは、一度立ち止まってどう向き合うかをなるべく考えるようにしているという意味です。あまり思い込みをせず、低い姿勢でいようと。謙虚にその場に向き合う感覚を少し整えてから、入るようにしています。初対面の皆さんといきなり会うとなると、テンションが少し上がってしまいますが、事前にそこをぐっと整えて参加しようと考えていました。
ただ、この講座のプログラム自体がそうした時間を作ってくれていたとも思います。皆さんがチェックインする際の会話を聞きながら、自分自身の心も整えていました。少し緊張感のある言葉や、逆にもっと楽しみたいといった言葉を聞いて、「自分はどうしようか」と立ち返る。そういう時間が何度もありました。
緊張感のあるロールプレイで秒単位の変化をリアルに味わった
──入門講座で面白かったことや、ご自身の中でのハイライトはどのあたりにありますか?
「入門講座」という言葉を聞いた瞬間にわき上がってきたのは、「ロールプレイ」ですかね。
※ロールプレイ :実際に起きている状況に近い場面を想定しながら「ロール=役割」を「プレイ=演じる」ことで、実践に必要な力を身につけていく方法。
皆さんと一緒に学ぶことが、何の壁もなくできる状況になったのは…“ストーリーテリング”をやってから。その場の空気も変わりましたし、自分自身が安心できる場にいるなと改めて気づきました。その次に行ったロールプレイで、皆さんのいろいろな思いや経験が出てきたときに、ストーリーテリングでお伺いしたことと重なり合うところがたくさんありました。それがロールプレイのより深い役割でもあり、皆さんのリアルな経験と重なってその場に出ている。そこに場の深さを感じました。ここまで深く緊張感のあるロールプレイはなかったなと。終わってみると非常に重みというか、広がりが感じられました。
今までもロールプレイはトレーニングの現場でやっていました。しかし振り返ってみると単純に役割が書かれているだけで目指すゴールに向けてトレーニングをするだけだったんですよね。講座内のロールプレイでは、そうした“決まったゴール”がありませんでした。参加者自身の経験が含まれた会話のやり取りがあったり、感情が表情に現れていたと思います。そういうものが、どれだけ皆さんの中で湧き上がっていたのか。ロールプレイで、どう読み解くのかが非常に新鮮な経験でした。
──入門講座のロールプレイを通して得た学びは、実際の仕事の場面でどのように活かせていますか?
まさにロールプレイの場は日常です。社内のミーティングの場でも、ロールプレイで味わった体験と似たような状況が起こるわけです。フラッシュバックとまではいかないかもしれませんが、同じような場面においてロールプレイでやったことがふと頭の片隅に出てきます。参加者の思いや、その場の空気の変化について、よりフォーカスしながら感じ取れていますね。あえて場に投げかけができるような変化はあったかなと思います。
さらにもう一つ、変化がありました。ある意味、より客観的・俯瞰的にファシリテーターとして参加できるようになりました。ひとりの参加者として眺めつつ、自分自身の発言や、誰の会話を特に気にするのかといった意識が持てるようになったと思います。
──本講座に参加されてからは、いかがでしたか?
入門編で実際にお会いして関係ができた上で本講座に移ったので、リモートではありますがそれを感じさせませんでした。本当に隣にいるような近いところで、時間を過ごせていたなと思いますね。毎回テーマや設定が変わっていくので、「変化をどう受け止めるのか」はやってみるとなかなか…受け止められなかったです。それでも、何かを感じ取っている方もいました。やはり、こうして参加者の皆さんと一緒にやってきているからでしょう。素直に受け取って考えられることが、すごくいいなあと思いました。
他の外部研修で「初めまして」となる状況と比べると、やはり学びの深さが違ったんだろうなと。振り返ってみて改めて思いますね。ロールプレイで強いインパクトのある体験を経ているので、新しい試みも受け止められる状況でした。僕自身も、非常に楽しんで参加していたという印象です。
──ToBeings橋本がチャットを使って解説を挟みながら、ロールプレイの場の瞬間的な変化を捉えていましたね。
一番驚いたのは、ロールプレイの最中にどんどんコメントが足されていくところです。その場の変化の捉え方やスピード感、ポイントなどにも最初はまったくついていけませんでした。「このスピード感で、この速さで!?」という感じです。「変化を秒で捉えます」とは聞いていましたが、実際はどういうことなんだろうと思っていましたから。
結果としてかなり短い時間でのロールプレイをやったことも何度かあったので、「秒で変化するものを捉える」ためには長いストーリーでやる必要はないんだと気づかされました。
そういう意味では、この「差」に気がつくことによって、捉えられていないものが自分にはたくさんあると認識できました。これは大きかったです。
それを前提に働きかけていくこと。そして何らかの形で捉えようと意識していくこと。この二つに分けて、これからも取り組もうと一旦整理しました。日常の場でこうした気づきのセンサーの感度を上げていくのは難しいものです。日常に戻ってしまうと、忘れてしまいがちですし、訓練やOJTで捉えていこうとするのも難しいものですよね。
──本講座での内容については「難しかった」という声をいただくこともあります。2期と3期を受けてみて、内容の違いや難しさを感じた点はありますか?
いや、どちらもしんどかったですね。もちろん、2期に初めて取り組んだ時よりは集中してワークに向き合えました。今行っているワークが、講座全体のどの位置付けになっているかも分かりますからね。
そういう意味で、3期は迷わずにゴールに向けて考えることができました。自分自身が探究したい学びに集中するとともに、同期の皆さんが求める学びは何かを想像しながら受けることができたのも、2期とは違う立ち位置で参加しました。
仕事の現場でも「センサーの感度」を高める訓練を続けていきたい
──日常生活に戻っても「センサーの感度」を維持するためには、何があると良いと思いますか?
日常から切り離されたトレーニングの場が必要です。そこでフォーカスをしてみるという体験が必要だと思います。それともう一つ、最近やっているのが感度の高さを「いろんな人に聞いてみる」ということ。リモートの会議中のチャットでのやり取りを通じて試しているんですよ。
例えば、オープンになんでも言えるメンバーが会議に参加していたら、会議中にチャットしてみます。「あれはシグナルなんじゃないか」と感じたものに対して、「彼のあの発言、どう思いました?なんか表情変わったよね」とか。そういう言葉を投げかけてみて、どんな反応がくるのかを確かめています。
そうした投げかけをするだけで「私もそう思いました」とか、「違う。私はそうは見えませんでした」とか返ってきますよ。会議の本筋があるのでずっとはできませんが、何か気になる時にはそうした会話をしています。
──改めて振り返ってみて、この講座はご自身にとってどのような意味があったと思いますか?
改めて「ファシリテーター」の役割を、定義も含めて考える場になりました。
ファシリテーターの役割は非常に大事です。司会者でも、意思決定者でもない役割を、自分の中で再定義できました。これは大きな収穫でした。実践するためにここで学んだことが、不可欠なものになったと思います。ただそれは本当に簡単ではなくて、これからもずっと学び続けていくわけです。だからこそ、参加者の皆さんと成果を共有できたらいいのかなと改めて考えるようになりました。
ファシリテーションは、あらゆる場面──講座の中でもおっしゃっていたと思いますが──日常会話や友人・家族との会話も含めて、すべてに作用するものです。どなたかもコメントしていましたが、やっぱり穏やかになるんですよね。そうした気持ちも、今回改めて感じ取れました。穏やかに過ごすことが及ぼす「生活の質の変化」を自分ごととして考えるきっかけにもなりました。
──2期・3期と続けて学ぶことで、仕事面における大きな変化はありましたか?
実は先日、社内勉強会を開いたんです。若手社員を中心に30名ほどが集まって、「問題を抱えている社員の相談と対応」に関する対応方法について学びました。人間関係の相談や、ハラスメント対策について、どのように向き合えば良いのかを考えましたね。
悩みの渦中にいる方の感情を受け止めるのは、怖いものです。やはり難しいですし、テクニカルな部分の工夫もいろいろあります。そうした点を解きほぐすための勉強会をしてほしいと依頼を受けて、やってみることになりました。
その際に、当講座で学んだ内容を少しかいつまんで伝えてみたんです。「見立てるとは何か」「感情への向き合い方は」などをお話ししながら、人事としての経験を通じて感じたことも取り入れました。
「怒りや悲しみを人事担当として受け止め、どう扱うか」は、一筋縄ではいきません。私自身も強い感情の扱い方がまず分からなかったし、仕事の上で直面することはそれほど多くないですから。
だからこそ、みんな困っていたわけです。勉強会前に事前アンケートを取ってみましたが「これは人事の仕事じゃないのでは?」という意見もありました。人によって、あるいは環境や現状によって置かれている立場はそれぞれ違うもの。だからこそ、1人ひとりを見立てる必要があります。そうなると、フレームによって“感情の整理”ができることが「安心感」につながると思うんです。
相手の感情をそのまま受け止めて共感すると、自分もそれに引っ張られてしまい、身動きが取れなくなる。そういう感覚があったところから「見立てて整理すること」を入れた会話をやってみると、少しエルダー視点でその場が見えてくるようになります。
※エルダー:英語では年長、年上、先輩を意味しますが、ここではその場を俯瞰して見ながら人・組織を導いていく「長老」のようなあり方を指す。
つまり、これまでの私の経験を、講座で再整理し、ケースとして示してみたわけです。「私がその場をどう見立て、向き合ってきたのか」を、かなり整理してお伝えできたかなと思います。
一方で「社員との相談で、どのような話が交わされているのか」について、具体的に知らないメンバーも多くいます。そのため、各関係者や意識したいポイントなども含めて詳細な説明もしました。加えて、相談に至るまでの過程にどのような感情が湧いていたのかもお話ししたので、かなりニッチでリアルな勉強会になったのではないでしょうか。
──3期の講座を終えて、何が一番印象に残りましたか?
修了式ですね。3期では2期での学びを意識し、他の講座生の“見立て”をしながら参加していたんです。「この人はどんな状況で、このワークをしているんだろう?」と考えながら取り組んでいました。
ところが最後の修了式でのプレゼンテーションやコメントなどを伺うと、自分の見立てを超える内容が出てくるわけです。自分の見立ての甘さ、ギャップにすごく驚きました。もっと場の見立てや、物事をいろんな側面で見ていく「エルダーシップの視点」を広げる必要があるなと。
この講座は入門編の合宿から始まって本講座に至るまで、いろいろな場がありますが、エルダーシップの視点で見ていない場面がたくさんありました。より学びを深めていけば、さまざまな場面でそうしたシグナルをキャッチし、結びついて気づけるようになると思うんです。そこまではまだ、全然至っていないということですかね。
言動や表情の変化について伝えられず、スルーしてしまう機会も多分、たくさんありました。しかし短い学びの中では、すぐに高まるものでもありませんし。継続的に意識しながら、日常の中で訓練していく──そういうスピード感で、良いのかもしれませんよね。
ですから、ある意味、計画的な学びの場をきちんと置いていかなければいけないと思いました。1回や2回だけでなく、本当に継続的にですね。
それともう一つ印象に残ったことが、働きかける「場のシグナル」を短い時間で見立て、それを受け取って何かしらを返せるようになったことです。そういう場に遭遇しても、焦らなくなりました。
周囲から期待されているエルダーシップの先にある役割
──これからの自分自身の進化を探求していくとなると、どのような点がメインテーマになっていきそうでしょうか?
これからもエルダーシップを高めていく大切さは感じていますし、続けていきたいと思う一方で、いろんな方々からのフィードバックもいただきました。「まさにエルダーのキャラクターを持っていますよね」と。周りの期待としては「そのキャラクターは分かったから、次は何?」という感じなんですよね。エルダーにエッセンスを加え、新しい形でやってみてほしいとコメントをいただいたりする。具体的に何をするかは、自分でもまだ分かりませんけれども。
それでもToBeingsでの学びをベースに、チャレンジしていくでしょうね。今までの自分にあるものの上に、何を積み上げていくのかがこれからのチャレンジになると思います。
──先ほどの「会議中にチャットをしている」エピソードもそうですが、一朗さんはすでに小さいチャレンジに日々取り組んでいるように思えます。濃厚なエッセンスを加えて新しい進化を遂げるよりも、ちょっとずつ試して挑戦していると感じますが、いかがですか?
「小さいチャレンジ」というのはまさに、学んできたことですね。秒単位でその場を理解したり、逆に言えば「秒で変えることもできる」のだとすれば、本当に「その場を変える一言をどう挟むか」が重要になります。小さいチャレンジは、その延長線上にあることかもしれないですね。
今ぼんやりと思っているのは「自分自身の感情をどう場に出していくのか」ということ。それこそ、「なんか感情がない」と周りから言われていますから。ないことの良さもあれば悪さもあるのだとすると、出すことのメリットもある。それをどう使うのかはちょっと気にはなっています。
「もう1回、やり遂げよう」と願う人に利用してほしい
──当講座はどのような方に向いていると思いますか?
誰が受けてもすごく面白いのでは?どんな方にとっても面白いというか、気づきがあるんですよ。どこから参加しても必ず得るものがあると思います。僕自身は素直な気持ちで受講しました。
この講座のテーマのとおり、変革の場面では立ち止まったり、壁に当たったりして諦めがちになってしまうと思うんです。そういう時にこの場を利用すれば、「もう1回、やり遂げたいこと」に向き合うきっかけになるのではないかと思います。
ToBeingsの強みとも言えますが、良い意味での軽やかさやしなやかさを講座全体から感じていました。なんでも受け止めてくれるとも言えますね。ニュートラルな関係で声をかけてくれるので安心できますし、「おっ」と思わせる楽しさもあります。それでも一緒に学びの場に参加すると、深みや重さも味わえますね。ToBeingsはそうしたバランスがうまく混ざっている組織だなと感じました。
──ちょっと視点を変えて、最後にお聞きします。3期を修了された今、2期を受けているかつての自分に対して、何と声をかけますか?
「いろんな場や状況の訓練ができたから、安心して向き合えるよね」と言いたいです。
これからは組織の進化に広げていく「実践の場」を増やしていく、次のステップへと進みます。2期、3期と連続して2度学んだ結果、自信というか「向き合うこと」ができるようになったと思います。
講座を通じて得た学びを、どのように使うか。そして組織にいかに展開していくか。そのタイミングがいよいよ来ていると感じています。